PICK UP ACTRESS 森七菜

PICK UP ACTRESS 森七菜

PHOTO=厚地健太郎 INTERVIEW=田中裕幸

 
 

「ラストレター」で初の一人二役
岩井監督からの指示を広瀬すずさんと一緒に広げていく……それはすごく楽しい時間でした

 
 
――2019年、アニメ映画「天気の子」でヒロインの声優を務め注目を浴び、その後も話題の映画に続々と出演、女優として躍進した森さん。1月17日公開の岩井俊二監督作品の映画「ラストレター」では、主演・松たか子さんの娘・颯香役と、松さん演じる裕里の少女時代の二役を演じています。まず完成した「ラストレター」を目にした今の思いは?

「私の人生で初めて“愛”に涙した作品です。『好きな人のために泣くというのはどういう気持ちなんだろう?』と思っていて、それは役を演じるにあたっても探していた気持ちだったんです。お芝居をするときも、裕里は恋をしているのでそういうシーンもあったんですけど、鏡史郎さんに対する気持ちは愛で、それを目にして涙した自分に驚きました」。

――高校時代の回想シーンで、裕里は神木隆之介さん演じる転校生・鏡史郎に淡い恋心を抱く役柄なんですよね。今回の作品では初めての一人二役も経験しました。その点で、特に心掛けたことは?

「観てくれる人にわかりやすく伝わったらいいなと思って、役の差はしっかりと表現したいと思いました。裕里は松さんの少女期ということで、違和感なく観てもらうためにはどうしようと考えて、松さんが出演されたドラマや映画、バラエティ番組も観て、仕草や表情を研究しました」。

――松さんの具体的な特徴って?

「うーん、言葉ではうまく表現できないんですけど、研究していくうちに話し方など特徴のある方だと思って、撮影当時は自分なりに頑張って真似できていたと思うのですが……。具体的には画面で確認していただければと思います(笑)」。

――一方、颯香役を演じるにあたっては?

「裕里との差をつけるため、なるべく私から出るもので演じようと思いました。颯香は中学生で好奇心旺盛な女の子。楽しいことがあるほうへあるほうへと進んでいく、“楽しみメーター100”で、そんな面を出しました」。


――今作では、颯香の従姉妹・鮎美役の広瀬すずさんと共演しています。前々回のインタビューで、広瀬さんのことをデビュー前から好きだったと話してくれましたが、今回そんな広瀬さんと共演できていかがでしたか?

「もうびっくりしました! 初めてお会いする日の前日に聞きました。鮎美役が誰かなとなんとなく予想していたんですよ。そうであってほしいと思っていたんですけど、でも絶対ないだろうと思っていたところで……。聞いたときには驚きすぎて、息できないくらいでした(笑)」。

――実際に会ったら?

「泣きました!」。

――えっ、本人の前で?

「いえ、それはさすがに(笑)。広瀬さんを好きなことは撮影期間中は黙っていました」。

――作中では違和感がない、ナチュラルな従姉妹感が出ていました。

「広瀬さんはお芝居が素晴らしいし、人間的にも素晴らしい方だから安心してお芝居ができました。役を通してだと、広瀬さんは何をやっても一緒になってやってくれそう、役として返してくれるという信頼感がありました」。

――二人のその場のノリで、台本と違う芝居になったという場面も?

「二人でいるシーンでクイズが始まったりして。『なんでしょうか?』って(笑)。アドリブも多かったです。“どっちがきれいに布団を敷けるか対決”とか。岩井さんからの“天の声”(演出)で『颯香、やってみて』と指示されてやったこともあります。そこからいろいろと広瀬さんと広げていって。それはすごく楽しい時間でした」。

――そういう関係性になるまでにはいろいろと話したり、遊んだり?

「素の状態だと緊張するので(笑)。いざ本番が始まると、広瀬さんも許してくれるだろうと思い切って接していけるんですけど、素だと『これは聞いちゃいけないのかな?』とかいろいろと考えてしまって、自分からはあんまりお話はできなかったんです。でも撮影前にドラマの『anone』をやってらっしゃって、私がその作品が大好きなので、その話をしたり、坂元裕二さん(同作の脚本家)のドラマが好きなことを伝えたり。クランクアップして少し経ってから一度広瀬さんと一緒にごはんを食べに行く機会もありました」。


――そのときに、昔からの思いを“告白”した?

「私はクランクアップしたときに、伝えたいことがある共演者の方に手紙を書くんですけど、その中で書きました。そしたら、あとから広瀬さんからメールでお返事をいただいたんですけど、『知ってたよ〜』って! スタッフさんには伝えていたので、そこから広瀬さんの耳にも入ったのかもしれません」。

――中学生の頃の自分からしたら、広瀬さんからメールが来るなんて……。

「到底思わないですね。広瀬さんの作品もCMももう何十回も観て。『学校のカイダン』(2015年放送の広瀬さんの主演ドラマ)を録画したものを今でもとってあるんですよ」。

――広瀬さんと共演したことで得られたことも多かった?

「広瀬さんとご一緒することになって何か盗めるものを盗んで帰りたいなと思っていたんですけど、何よりすごいところって、広瀬さんがいるその雰囲気だけでその映画の空気を支配してしまうところです。完全に生まれ持ったもので、真似することは到底できないと思って。このままだと完全に、“すずちゃんにくっついている女の子”で、『そういえばいたね』で終わってしまうと。素敵な役をいただいたし、私がそれで終わってしまうと、颯香や裕里が持っていた思いも消えてしまう。それだけは嫌だなと思って、自分は自分で一生懸命もがくことにしようと。それによってモチベーションがすごく上がりました」。

 
 

映画主題歌で歌手デビューも
大好きな曲で宝物

 
 
――撮影期間、岩井監督の演出手法や言葉で印象に残ったことは?

「オーディションを受けるにあたって、岩井さんのこれまでの作品をたくさん観させていただきました。今回初めて岩井さんの作品を観たんですけど、驚いて。こんな素敵な作品があったのかと! まさに自分がやってみたかった作品の世界でした。この人たちは台本があってカメラがあって……というのではなく、そこにいるからカメラがある、と思えるような感じ。そういう場所に巡り会えたと思ったけど、オーディションに受からないだろうなと思っていたら、まさかこんな大事な役に抜擢していただけるとは!」。

――オーディションではその思いを監督に伝えた?

「岩井さんに『どうやったらこんなにリアリティがあるというか、役柄が今もどこかに生きているんじゃないかと思えるような映画を作れるんですか?』と聞いたら、『僕は何もしていないけどな』と答えられて。『あ、落ちたな』と思ってたら選んでいただけて! 撮影現場で、自分でそれを見つけてみようと思ったら、岩井さんがいろいろと細かい演出をされるのではなくて、逆に私は撮影期間に入ったら役の気持ちをずっと考えて、役に寄り添っている時間が多かったんです。『よーい、スタート』の掛け声に気づかないくらい」。

――岩井作品のナチュラルさは、役者が自然に役として生きる環境を作ってくれることで生まれるんですね。ところで、裕里は神木隆之介さん演じる高校生時代の鏡史郎へ淡い恋心を抱きますが、そういった恋愛感情を演じるにあたって考えたことは?

「人を好きになったことはありますけど、裕里のように『好きだから嘘をつきたい』とか、涙を流したりというのは、私にはあまり理解ができなくて……。好きになった人はいても、若干冷めてたというか、小学生、中学生ならではの『とりあえずいるよ』みたいな感じだったのかと。でも、今回そういう感情を演じられたのは、きっとお相手が神木さんだったからだと思うんです。すごく素敵な方で、『ラストレター』の撮影前にも一度ドラマで共演させていただいたんですけど、まだほとんど撮影を経験していない時期で、『どんな感じなんだろ、芸能人の方って……』と思っていたら、謙虚で腰が低いし、現場での動きでぶつかりそうになったときも神木さんはすっと避けてくれたりするんです、何も言わずに。またいつかどこかでお芝居を一緒にしたいと思っていたので、『ラストレター』でご一緒させていただけると聞いたときは本当に嬉しかった! 人として尊敬できる方で、裕里としての気持ちに入りやすかったです。すごくきついシーンのあとにも、『頑張ったね』と言ってくださったんですよ。その優しさに感激していたのですが、でも映画本編を観たときに、裕里と未咲さん(広瀬さんが回想シーンで演じる裕里の姉)に向ける顔がまったく違うんです(笑)。未咲さんを見る顔はとろけているというか。それを見たときにはショックで、『本当に裕里は脈なしじゃん、かわいそうに』と思いましたね(笑)」。


――昨年「3年A組-今から皆さんは、人質です-」出演時のインタビューで、台本にない動きをしてしまったという話を聞かせてもらって、それは「ラストレター」のときにもあって「『涙を流す』と台本にあったけど流せなかった」と語ってくれました。それはどのシーン?

「福山雅治さん演じる鏡史郎さんと広瀬さん演じる鮎美さんと颯香の3人で、未咲さんのお仏壇の前でお話しするシーンなんですけど、颯香は今泣かないんじゃないかなって。涙が出ないんじゃなく、颯香は二人と一緒にいるときに泣くのではなく、その後に一人になったときに泣くんじゃないかなと感じて。福山さん、広瀬さん、お二人のお芝居を見て自然にそう感じました」。

――本作では“手紙”や“文通”が重要なアイテムになっていますが、今の森さんの世代だとあまりピンとこないのかも。

「私、小学生のときに友だちと文通していました。大阪から大分に引っ越したのですが、当時まだ携帯を持ってなかったので、文通でやりとりしていました」。

――裕里は昭和時代の女性ということで、その時代の女性を意識しましたか?

「時代はあんまり考えなかったです。恋する乙女の気持ちは今も昔も変わらずで、ツールが違うだけと思ったので。それよりも松さんの高校時代であるということを何より意識しました」。

――さて「ラストレター」では今回の主題歌「カエルノウタ」でCDデビューも果たします。「作詞=岩井監督 作曲=小林武史さん」という豪華な顔合わせの楽曲。初のレコーディングはいかがでしたか?

「自分が歌っているところってあまり意識しないので、(聴いてみて)別の人が歌っているように感じるのが私にとって最善というか、自分が恥ずかしがっていると、みんなが恥ずかしくなってしまうのかなと。そうやって客観視することで、いろいろ自分のダメなところも見えてきます。岩井さんと小林さんのお二人を信頼して、お任せして出来上がりました。大好きな曲で宝物になりました」。


――小林武史さんといえば、森さんが事前に観たという映画「スワロウテイル」で、YEN TOWN BANDをプロデュースされたり、岩井作品とは縁の深いクリエイターですが、そんな小林さんとご一緒してみての感想は?

「かっこよかったです。アーティスト、クリエイターという感じがすごくして。ご一緒できて楽しかったです」。

――小林さんから言われて印象に残っていることは?

「『歌声に硝子みたいなざらざらしたものが散らばっていていいね』って言ってもらえました」。

――また改めて歌の話が来たら、歌いたい?

「どうでしょう? 需要があるなら(笑)」。
 
 


 
 

森七菜(もり・なな)

生年月日:2001年8月31日(18歳)
出身地:大分県
血液型:A型
 
【PROFILE】
2016年、地元の大分で家族と食事中にスカウトされたことをきっかけに、行定勲監督のWeb広告に出演し芸能活動をスタート。2019年、ドラマ「3年A組-今から皆さんは、人質です-」(日本テレビ系)、そしてヒロイン・陽菜の声を演じた映画「天気の子」(新海誠監督作品)出演で一気に注目度を上げる。その他にも、映画「東京喰種 トーキョーグール【S】」、「地獄少女」、「最初の晩餐」、NHK 土曜ドラマ「少年寅次郎」など話題作に続々出演。2020年にはNHK 連続テレビ小説「エール」など出演作品が控えている。年末年始には全国高校サッカー選手権の「応援マネージャー」を務めた。
 
 

ラストレター

森さんが颯香役、裕里役を演じた映画「ラストレター」は1月17日(金)公開。
詳しい情報は「ラストレター」公式HPへ
 

 

 

 

 
© 2020「ラストレター」製作委員会
 
 
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